【融資】中小企業経営者が知るべき経営者保証解除のメリット・デメリットと実現への道筋
はじめに
中小企業経営者にとって、融資における経営者保証は長年当然のものとして受け入れられてきた制度です。しかし近年、この前提が大きく変わりつつあります。金融庁の調査によると、約7割の企業が「金利が上がったとしても経営者保証を解除したい」と考えており、経営者保証解除への関心が高まっています。
本記事では、経営者保証解除のメリット・デメリットを詳しく解説し、なぜ多くの経営者が解除を望みながらも実現に至らないのか、その理由と解決策をご紹介いたします。
経営者保証とは何か
経営者保証とは、中小企業が金融機関から融資を受ける際に、経営者個人が会社の連帯保証人になることです。この制度は長らく中小企業融資の前提条件のように扱われてきましたが、現在では見直しの流れが広がっています。
金融機関が経営者保証を求める理由は主に以下の4つです。
- 返済リスクの軽減:万が一の際に保証人から回収できる安心感
 - 経営者の責任・コミットメントの確保:経営者の逃げられない責任を担保
 - 金利の低設定と貸しやすさ:保証があることで条件を優遇できる
 - 審査の通しやすさ:リスクが軽減されることで融資判断がしやすくなる
 
経営者保証解除の3つの大きなメリット
1. 経営判断の自由度向上と成長機会の拡大
経営者保証を解除する最大のメリットは、思い切ったチャレンジができるようになることです。経営者保証があると、失敗した場合に個人財産を失うリスクから、自然と守りに入ってしまいがちです。
設備投資や新規事業など将来の成長につながるチャレンジであっても、「万が一失敗したら自分の家も財産も失うかもしれない」という心理的な制約が働き、成長機会を逃してしまうことがあります。この「萎縮効果」は、経営者保証の最大の弊害とも言えるでしょう。
保証解除により、経営者は合理的な判断に基づいて事業運営を行えるようになり、会社の成長可能性を最大化できます。
2. 事業承継の円滑化
経営者保証は事業承継にも大きな影響を及ぼします。経営者が個人で保証していると、会社を引き継ぐということは保証債務まで引き継ぐことになってしまいます。
多くの経営者が「息子や後継者に借金の保証まで背負わせたくない」と考え、また後継者側も「保証人になりたくない」として事業承継を断るケースが増えています。実際に、保証人をやらせたくないという理由で承継を諦め、廃業を選ぶ企業も少なくありません。
経営者保証の解除により、将来の会社存続可能性を高め、スムーズな事業承継を実現できます。
3. 相続リスクの回避
経営者が亡くなった場合、保証債務は基本的に相続されます。つまり、経営に全く関わっていない配偶者や子どもが、個人保証の責任を負わされる事態が起こり得るのです。
経営者の死後、会社が傾いた場合に返済責任が遺族にのしかかるという現実が数多く発生しています。保証債務は死んでも終わるものではなく、残された家族に重い負担となって引き継がれてしまいます。
経営者保証解除により、このような家族への負担を未然に防ぐことができます。
経営者保証解除の現実的な判断
現実的な経営判断として
現在の資金繰りを優先するか、将来のリスクを回避するか、この両面をきちんと比較検討することが重要です。目の前の資金調達のしやすさと、将来の選択肢や安心を奪うリスクを天秤にかけ、経営者自身が納得できる判断をしていくことが求められます。
経営者保証解除が進まない3つの理由
1. 解除方法に関する知識不足
最も大きな理由は、経営者保証解除の具体的な方法を知らないことです。制度が整い金融機関の姿勢も変わっているにも関わらず、解除の手順や活用できる制度について十分な情報を持っていない経営者がほとんどです。
2. 金融機関との関係悪化への懸念
多くの経営者が「保証解除を申し出ると金融機関との関係が悪くなるのではないか」という不安を抱いています。しかし、適切な準備と手順を踏めば、関係を維持しながら解除交渉を進めることは十分可能です。
3. 財務要件への不安
経営者保証解除には一定の財務要件をクリアする必要があり、「自社の財務状況では無理ではないか」と諦めてしまうケースが多くあります。しかし、段階的な改善により要件をクリアできる可能性は十分にあります。
経営者保証解除の実現に向けた具体的アプローチ
融資の種類を理解する
経営者保証解除を進めるには、融資の種類によりそれぞれ解除の方法が異なるため、まず現在受けている融資の種類を以下の3つに分類します。
- 日本政策金融公庫の融資
 - 信用保証協会の保証付き融資
 - プロパー融資
 
経営者保証に関するガイドラインの3要件
経営者保証の解除には、全国銀行協会と日本商工会議所が策定し2014年に運用が開始された「経営者保証に関するガイドライン」の要件を理解することが重要です。
- 法人と個人の分離:役員報酬・賞与・配当、オーナーへの貸付など、法人と経営者の間の資金のやりとりを、「社会通念上適切な範囲」を超えない
ようにする体制を整備し、適切な運用を図る。目安として、法人から経営者への貸付金・仮払金等が総資産の1%以下、または100万円以下 - 財務基盤の強化:財務状況及び経営成績の改善を通じた返済能力の向上等により信用力を強化。法人単独での収益力が十分あり、返済能力が認められること
 - 積極的な情報開示:財務状況や事業計画の透明性確保
 
保証協会・日本政策金融公庫の制度活用
保証協会や日本政策金融公庫では、一定の条件を満たせば経営者保証が不要となる制度が設けられています。一例として、それぞれの詳細な要件は割愛しますが、保証協会の経営者保証不要の制度には以下のような制度があります。
- 創業融資制度:創業5年以内が対象、無担保・無保証で上限3500万円
 - 事業者選択型経営者保証非提供制度:保証料上乗せで保証人なしでの借入が可能
 - プロパー融資借換特別保証制度:プロパー融資を保証付き融資に借り換える制度
 
まとめ
経営者保証解除は、単なる個人リスクの軽減にとどまらず、経営判断の自由度向上、事業承継の円滑化、家族の安心確保など、多方面にわたって企業と経営者にメリットをもたらします。
一方で、現在の資金調達のしやすさや金利面でのメリットも存在するため、経営者は自社の状況を総合的に判断し、適切なタイミングで解除に向けた取り組みを進めることが重要です。
制度が整い金融機関の姿勢も変化している今こそ、経営者保証解除を検討する絶好のタイミングと言えるでしょう。適切な準備と手順を踏めば、金融機関との良好な関係を維持しながら解除を実現することは十分可能です。