【法人税】少額減価償却資産の「通常1単位」判定における機能基準の解釈と実務対応

経理実務において、減価償却資産の取得価額が10万円未満または20万円未満である場合の判定は、日常的に発生する重要な判断事項です。この判定を誤ると、税務調査において指摘を受けるリスクがあるため、正確な理解が求められます。本稿では、法人税基本通達7-1-11が定める「通常1単位として取引されるその単位」の解釈について、機能基準を中心に実務的な視点から解説いたします。

少額減価償却資産制度の基本的な枠組み

法人が取得した減価償却資産について、取得価額が10万円未満のものは損金経理により一時償却が認められ、20万円未満のものは一括償却資産として3年均等償却を選択できます。この判定は資産の取得価額に基づいて行われますが、その判定単位が実務上の重要なポイントとなります。

法人税基本通達7-1-11では、取得価額の判定単位について「通常1単位として取引されるその単位」ごとに行うことを定めています。具体的には、機械装置は1台または1基ごと、工具器具備品は1個、1組または1そろいごとに判定します。一方、構築物のうち枕木や電柱など単体では機能を発揮できないものについては、一の工事等ごとに判定することとされています。

「機能」概念の重要性と射程範囲

法人税基本通達7-1-11および過去の判例等を参考にすると、その資産単体では機能を発揮できないないような資産の場合は、資産の「機能」に着⽬して判定単位を決定することとなります。そのため判定単位を決定する上で、「機能」という概念が極めて重要な役割を果たします。資産本来の属性から単体としての機能を発揮することができない資産は、複数の資産を一体として判定することが求められます。

この機能基準は、通達が枕木や電柱などの構築物を想定して設けられたものですが、その適用範囲は構築物に限定されません。工具器具備品などにおいても、単体では本来の機能を発揮できない場合には、機能を発揮できる単位で判定を行うことになります。

判例における判断基準

最高裁判例(平成20年9月16日)では、NTTドコモのPHS事業におけるエントランス回線の施設利用権について、「当該企業の事業活動において、資産単独であっても機能を発揮することができ、収益の獲得に寄与するものを単位ととらえて、その取得価額を判定すべきである」という判断基準が示されています。

この判例は、エントランス回線が1回線ごとに独立して機能し、1回線ごとに管理され、1回線ごとに設置費用を支払う必要があることなどから、1回線ごとに少額減価償却資産に該当すると判断しました。この判例は、通常の取引単位での判定が難しい場合、資産の機能面に着目して判定を行うという考え方を明確にしたものとして、実務上重要な意義を有しています。

実務における具体的な判定事例

応接セットの場合

応接セットは、テーブルと椅子が一組となって初めて応接という機能を発揮します。テーブルだけ、あるいは椅子1脚だけでは、応接セットとしての本来の機能を果たすことができません。したがって、テーブルと椅子を別々に購入できる場合であっても、応接セットとして使用する予定であれば、セット全体で10万円未満または20万円未満の判定を行います。

カーテンの場合

カーテンは1枚では独立した機能を有しません。国税庁の質疑応答事例では、ワンルームマンションのカーテンについて、1部屋ごとに機能を有するため、カーテン1枚ごとでも、マンション1棟ごとでもなく、1部屋ごとに判定すると明確に示されています。複数枚が組み合わされて初めて遮光や目隠しなどの機能を発揮するためです。

間仕切り用パネルの場合

賃借したビルについて間仕切りをする際に用いるパネルについても、同様の考え方が適用されます。パネル1枚では独立した機能を有さず、数枚が組み合わされて隔壁等を形成します。したがって、パネル1枚当たりの取得価額が10万円未満であったとしても、間仕切りとして設置した状態において少額減価償却資産であるかどうかを判定することが相当とされています。

単独で機能する資産の判定

一方、単独で機能を発揮できる資産については、複数個をまとめて購入した場合であっても、個別に判定を行います。

パソコンとプリンターを同時購入した場合

パソコンとプリンターを同時に購入した場合、それぞれが他の機器と組み合わせて使用することが可能です。パソコンは他のプリンターと、プリンターは他のパソコンと組み合わせて機能を発揮します。したがって、パソコンとプリンターは別個の取引単位とみることができ、それぞれ1台ごとの金額により少額減価償却資産に該当するかどうかを判定します。(参考:税務研究会 ZEIKEN PRESS 「第223回 少額減価償却資産の判定~『通常1単位として取引されるその単位』とは~」 https://www.zeiken.co.jp/news/18223339.php)

内線電話機の場合

複数台の内線電話機を同時に購入した場合であっても、内線電話機は1台ごとに単位として使用する目的で作られています。また、デザインや素材等の共通性の観点から、1台を切り離しても半端なものにはなりません。したがって、内線電話機1台が「通常1単位として取引されるその単位」であり、1台の取得価額により判定します。(参考:税務研究会 ZEIKEN PRESS 「第223回 少額減価償却資産の判定~『通常1単位として取引されるその単位』とは~」 https://www.zeiken.co.jp/news/18223339.php)

構築物における「一の工事等ごと」の判定

構築物のうち、枕木や電柱など単体では機能を発揮できないものについては、一の工事等ごとに判定することが通達で明示されています。これらの資産は、相当区間の線路設備や相当距離の送配電設備を構成して初めて事業の用に供することができます。

たとえばテトラポッドの場合、護岸の修復に際して数十個を投入した場合、1個当たりの価格が10万円未満であっても、一の工事ごとに全体として消波施設としての機能を果たすものであるため、少額の減価償却資産の判定も一の工事ごとに行うとされています。(参考:第一法規「令和6年度版 法⼈税通達逐条解説 2巻1612⾴ 基本通達編」)

デザインや統一性が考慮される場合

高級レストランのカーテンや役員会議室の調度品など、二以上の器具備品が一定の色調やデザインにより統一的にレイアウトされ、全体として一の空間を演出するように設置されるものについても、機能基準の考え方が適用されます。このようなものは、単体で少額資産かどうかを判断するのは適当でなく、そのレイアウトされた一の空間ごとに判断を行うことになります。(参考:第一法規「令和6年度版 法⼈税通達逐条解説 2巻1612⾴ 基本通達編」)

ただし、この考え方は、あくまでも機能の一体性やデザインの統一性が明確に認められる場合に限定されます。単に同時に購入したというだけでは、一体として判定する根拠とはなりません。

実務対応における留意点

少額減価償却資産の判定単位については、画一的な基準を適用することは困難であり、個々の資産の性質や使用実態に応じて判断することが求められます。実務においては、以下の点に留意して判定を行うことが重要です。

まず、資産が単体で本来の機能を発揮できるかどうかを検討します。他の資産と組み合わせないと機能しない場合には、機能を発揮できる単位で判定を行います。次に、通常の取引単位がどのようになっているかを確認します。一般的に1個ずつ取引されるものか、セットや組で取引されるものかを検討します。

さらに、デザインや素材等に共通性や関連性があり、1つを切り離したときに半端にならないかどうかも考慮します。そして、過去の判例や質疑応答事例などを参考に、類似の事例における判断を確認することも有効です。

税務上の取扱いは、時代の変化や技術の進展に伴い、新たな解釈が求められる場面も増えています。実務においては、個別の事情を慎重に検討し、必要に応じて税務署や税理士に確認することが望ましいといえます。

まとめ

少額減価償却資産の判定における「通常1単位として取引されるその単位」の解釈は、機能基準を中心に行われます。資産が単体で機能を発揮できるかどうか、通常どのような単位で取引されているか、デザインや素材に共通性があるかなど、多角的な視点から判断することが求められます。

経理実務者としては、これらの基準を正確に理解し、個々の資産の性質や使用実態に応じて適切な判定を行うことが重要です。判断に迷う場合には、国税庁の質疑応答事例や判例などを参考にしながら、慎重に検討を進めることをお勧めいたします。